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講師コラム:佐野 茂 氏


『 電池特にEV用電池の最新事情 
リチウムイオン電池・次世代電池の課題を解決する
新規な電池理論
 



コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。

第1回(2018/10/10)



1)自己紹介および本コラム執筆について

 初めまして、バッテリーコンシェルジュ佐野です。
 記録的豪雨、経験のない猛暑、最大級台風、震度7の地震があった異常な夏が過ぎました。自然に狂いが生じていると言われることもありますが、彼岸花は例年通りお彼岸の日にお墓に咲きました。葉のない茎の上に華麗な朱色と純白の花が乗っている姿は孤高の華やかさがあります。純白は珍しく突然変異かも知れません。
 平成20年11月から翌年2月まで当コラムを執筆していました。丁度10年振りになります。
     https://johokiko.co.jp/column/column_shigeru_sano.php
 「バッテリーコンシェルジュ」と言う肩書は勝手に作り出したもので、今の所苦情を聞いていませんが、学会・業界では認知されている訳ではありません。学会などで名乗る時には恥ずかしく言い淀んでいます。
 今春に名古屋にある一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCCと略す)の客員研究員を退任し、現在は某充放電装置メーカーの援助で何とか電池と関り続けています。中学2年の時に電池研究者になる夢を抱き、半世紀に亘り電池に携わってきました。研究開発に関し世界一の失敗例を有していると自負しています。(FIG.1)



 前回執筆から10年が経ち、EV用電池開発など電池業界は激変しており、また、「新規な電池理論」について篩膜を実証できました。私の知見が電池技術修得、次世代開発に役立つことがあると執筆を思い付き、㈱情報機構様にご相談しました所、本コラム執筆に快諾いただきました。月1回全24回の掲載を予定しております。各回2)、3)、4)項を平行に書き進めていきます。3)項は順不同になりますがご容赦願います。

2)電池全般及びリチウムイオン電池の特徴と課題
  副題:電池及びリチウムイオン電池の現状


 最初に電池工業会発行の「でんち」に掲載されている国内電池産業の概要を紹介します。小冊子「でんち」は電池工業会が編纂しており、電池業界の施策などが解り易く書かれています。屋井電器が登場する電池開発の歴史などは面白く読ませていただきました。
 国内での電池生産は約8,000億円で、年率5%上昇を続けられれば5年程で1兆円産業になります。充電できない1次電池は8%以内です。量販店で安売りされているマンガン乾電池の国内生産は打ち切られています。乾電池トップメーカー某社の最新工場はアフリカのコンゴにあると聞いています。コンゴはコバルト生産でも有名で電池との関りが強い国です。(追記:寄稿時には知らなかったのですが、コンゴのムクウェグさんがノーベル平和賞を受賞されました。コンゴの紛争には鉱物資源の利権が絡んでいると聞き複雑な気持ちです。)2次電池販売金額は7,900億円で、大半はリチウムイオン電池(注1)で、内車載用が2,700億円65%です。鉛蓄電池、ニッケル水素電池はほとんど増えることなく、リチウムイオン電池特に車載用と輸出が伸びを支えています。(Fig.2) 輸出先は大半が東南アジアです。グラフの縦軸の金額には余り意味がありません。1992年にソニーが製品化に成功したリチウムイオン電池も携帯電話に代表される民生用は韓国、中国に追い抜かれ、車載用も中国に追い抜かれたと言われています。世界規模での電池市場については調査会社の報告を参考にして下さい。
 昨秋に中国CATL社トップのEV用リチウムイオン電池に関する講演を聞きました。数年前に日本メーカー2社と韓国LG化学の方のEV用リチウムイオン電池の技術講演を聞いた時に、日本メーカーが最新技術を隠したことを割り引いても、LG化学の技術トップの講演内容が一番素晴らしいと思いました。その時の印象と全く同じでCATL技術トップがリチウムイオン電池の技術に真摯に立ち向かって事業を進めていると感じました。一方、日本メーカートップの講演からは技術を理解した上で話されているようには聞こえませんでした。リチウムイオン電池技術では日本メーカーは完全に追い付かれました。

  ※注1:「リチウムイオン2次電池」という名称は、ソニー㈱が最初に製品化した時に命名し、現在一般に通用している名称です。リチウム金属電池と区別する呼び方で、技術的には正負極どちらに収納されてもイオン状態にあり、使用面ではリチウム金属に比し遥かに安全であることを表現していて、非常に上手い名付けと感心しています。充電できないリチウムイオン1次電池は存在していないので、本稿では充電できるという意味の2次(蓄)は省略します。文字数制限でLIBと略すこともあります。Iを小文字iで表記していることがありますが、リチウム金属電池と混同するので適当とは思えません。なお、Siなどとの合金系負極電池を、リチウムイオン電池と呼称するのは相応しくないと思います。


<リチウムイオン電池販売推移>車載用と輸出が伸びています。


3)EV用次世代電池の課題 副題:用途別要求特性とHEV用電池について

 電池は用途に応じて機種が決められます。代表的な用途について要求される特性を整理しました。(Fig.3)
 民生用と総称している携帯電話・パソコンなどの携帯機器では現状のリチウムイオン電池で最低限のニーズは満たせています。使用頻度の高いユーザーはリチウムイオン電池が内蔵されているモバイルバッテリーと言う携帯型充電器を予備に持っています。
 ハイブリッドカー用電池は、トヨタ自動車が関連会社のPEVE社製ニッケル水素電池とリチウムイオン電池とを車種別に併用し、ホンダ自動車がGSユアサ社との合弁会社ブルーエナジー社製リチウムイオン電池を搭載しています。基本的にはガソリンエンジンで走行し、スタート時・急加速時などのエンジン効率が良くない時の補助としての役割で、エネルギー貯蔵自体は重要な性能ではなく、5Ah程度の電池が採用されています。一方、出力は重要で数kw、つまり10C(※注)以上の電流を流せる設計になっています。ブルーエナジー社の負極にはグラファイトではなくハードカーボンが使われています。リチウムイオンの挿入・脱離速度が速い、膨張収縮が少ないなどの利点から採用されていると思います。僅かであってもグラファイトの膨張収縮はSEI(固体電解質界面:後述)の溶解・沈殿による電池劣化を促進します。
 トヨタ自動車新型プリウスにはニッケル水素電池とリチウムイオン電池の両方が搭載されています。電池占有容積は35.5Lと30.5Lとで5Lの差が電池容量に反映され、前者は6.5Ah、後者は3.6Ahです。公表された写真を見るとこの差を制御回路が占有しています。つまりニッケル水素電池に比しリチウムイオン電池は複雑な制御が必要なことが理解できます。両者の電池容量差は理論体積エネルギー密度からは理解できない大きな差で、リチウムイオン電池がエネルギー密度を無視してパワー重視設計、つまり活物質の充填率を下げた設計になっていると推定します。(Fig.4)
 定置用は後述しますが、リチウムイオン電池では価格が難問と思います。

※注2:「C」は電池専門記号で、容量を乗じると電流に換算できます。異なる容量の電池特性を比較評価する時に便利な単位です。ただし、容量の少ない薄膜電池では適用できません。ある学会で、「薄膜電池で100C充電ができた。」と言う発表があり、某電池メーカーの方が座長としての中立の立場を忘れ憤慨していました。
 

<用途別要求特性>EV用は全て高性能で、特にエネルギー密度が重要!



<HEV用とEV用> HEV用はパワー重視、EV用はエネルギー密度が重要!


4)新規な電池理論「片持ち論+篩膜」
  副題:新規な電池理論考案のきっかけとなったカーボンナノチューブ


 JFCC在籍中に、楠主幹研究員(その後名古屋大学教授、今春退任)が発明したカーボンナノチューブ(CNTと略す)の応用開発を担当し、楠主幹研究員よりCNTについて教えていただきました。楠CNTはSiCの単結晶基板を加熱分解して成長させ、非常に密なブラシのような形状です。(Fig.5,6) その特性を活かし研磨材としての応用を検討しました。特性は非常に良いのですが、価格がネックになり実用化は出来ていないと思います。(Fig.7)
 CNTはS大のE教授を通じて知識がありました。E教授とは30年程前に特殊カーボンの応用開発に関する国プロ委員会でご一緒し、その精力的なご活躍に感心しました。E教授が発明したCNT前身の気相成長カーボンファイバー(VGCF)は昭和電工(株)にて製品化され、負極添加剤としてリチウムイオン電池の重要な材料となっています。
 私は研磨剤としての応用と並行して電池電極として使えないかを考えましたが、この内径では内部が電解液分解生成物で埋められイオンが動けなくなり、電池として機能できないことを直ぐに理解しました。(Fig.8) CNTを電池材料にする研究が多くなされましたが、結局は全てこの結論になっています。金属酸化物を導入してレドックスキャパシタ容量を測定して、CNTで電池ができたと言う発表には厭になります。
 なお、JFCCのK氏は硫酸系で水分解が起こらない電位域でのキャパシタ容量を測定し、非常にきれいなデータを得ています。CNTの先端をキャップと言いますが、そのキャップを焼き切って除去するとCNT内部に電解液が入り容量が増大することを実証しました。この知見は多孔性カーボン全般に適用できる非常に貴重な実験結果で、「新規な電池理論」構築にも役立っています。(特開2010-10623)


<SiC表面分解法CNT>ブラシのように密に林立している。



<SiC表面分解法の機構>SiCを真空加熱して分解する。



<SiC表面分解法CNTの特長>研磨材として優れた特性を有している。



<CNTが電池に使えない理由>CNT内部がSEI分解生成物で埋まり、動作しない。


5)終わりに

 今回は自己紹介から始め本コラムの今後の進め方について記述しました。
 電池業界は車載用リチウムイオン電池に支えられ幸いにも現在は成長産業ですが、他の電池のように衰退に向かわないためには、産・官・学の真剣な取り組みが必要と考えています。次回は基礎的なことですが、充放電曲線の見方について説明をします。用途別に電池に対する要求性能を整理し、HEV用電池はパワー重視設計であることを説明しました。次回は、EV用としてのリチウムイオン電池を評価します。「新規な電池理論」考案のきっかけになったCNTを紹介しました。次回は、グラファイトを代表とするカーボン材料におけるリチウムイオン貯蔵に関する現行理論の矛盾について詳述します。
 9月25日、26日金沢大学で開催された「2018年電気化学会秋季大会」に参加しました。発表内容は次回に報告します。参加者1000人以上、発表500件、懇親会300人と聞きました。会場が広いためか各会場とも空いていました。韓国・中国からの参加者はほとんど見掛けませんでした。11月末開催の電池討論会に集中しているかも知れませんが、日本の電気化学会には価値がないと思われるようになったとしたら残念です。
 久し振りの執筆で手古摺りました。お読み難い部分が沢山あったと思いますがご容赦願います。徐々に読み易い文章が書けるようになるとご期待願います。ご質問・ご意見をお寄せいただけますことを楽しみにしております。是非ともよろしくお願い申し上げます。
 彼岸花と言えば、山口百恵が唄った「曼珠沙華(シャカ)」を思い出します。彼岸花と同じく本コラムも毒を抜けば非常時にきっと役立つはずです。次回をお楽しみに!

佐野 氏のご紹介

佐野 茂 氏
バッテリーコンシェルジュ

■講師自己紹介: ・中学2年の時、電池研究者になる夢を抱いた。
・湯浅電池(株)(現(株)GSユアサ)で多くの電池研究。
・成功談はないが、失敗談は豊富にある。

■ご略歴:
 1972年 東工大電気化学科卒。
 1973年 湯浅電池㈱(現GSユアサ)入社。蓄電池研究。
 1993年 リチウムイオン電池研究・開発・量試。
 2005年 ファインセラミックスセンター。「新規な電池理論」考案・出願。
 2007年 国プロ受託「計算化学による実証」。
 2009年 東洋システム㈱電池評価担当。
 2016年 バッテリーコンシェルジュ。「SiC篩膜」特許出願。



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