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トップ講師コラム・取材記事 一覧> 医学研究の斬り方:情報機構 講師コラム


講師コラム:大橋 渉 先生


『 医学研究の斬り方 』





講師コラムテーマ
第1回 ありがたや・・・になっていないか?
第2回 論文の作法
第3回 論文の定義(一種の自己主張には違いないが・・・?)
第4回 論文の基本構造
第5回 投稿規定の理解
第6回 名刺と顔とは?
第7回 投稿規定以外の注意点
第8回 Reviewer(査読者)との戦い?
第9回 Accept〜掲載までの注意
第10回 As a Reviewer?

コラムへのご意見、ご感想がありましたら、こちらまでお願いします。





第10回 As a Reviewer? (2011/9/6)



 事務手続きが無事に完了して、晴れて掲載となりました。Pubmedのサイトから自身の論文を検索出来たときに、初めてAcceptされた実感が出てきた・・・という感想はよく聞かれますが、コレには筆者も同意します。たとえIn pressであったとしても、やはり現物を見るまでは不安ということで、なかなか安心出来なかったりもしました。

 が、掲載されてしばらくすると、何故か英文メールが増加しますので、再度掲載を実感する瞬間になります。英文メールのうち大半は、関連企業からのダイレクトメールやSales関連、時にSpamメールもありますので、多くは無視しても問題の無いものですが、中にはごく稀にですがHeadhuntingなどの案件も混じっていることがありますので、一応は一通り目を通しましょう1)。その他には、「あなたの論文のpdfファイルを下さい」 というような要求もありますが、本来ならばPubmed経由で有料であるような場合には、うっかり渡してしまうと著作権に触れてしまう場合があります2)。筆者の場合ですが、そのような場合にはPubmedのアドレス送付することにしています。

 ようやく本題に入ります。掲載後しばらくすると「Request for Review(査読願い)」 がくることがあります。こちらは「他者の論文の掲載可否を判断してほしい」 というお願いであり、皆様が投稿時に他の専門家にしてもらったのと同じことを求められているわけです3)皆様が数ヶ月間結果を待ち続けたように、今度はその論文を書いた誰かが結果を待っています。投稿時に「やけに査読に時間がかかるな!」・・・などと思っておられた方は、自身がReviewerを引き受けてみると、実際には思いのほか時間がかかることに気付くものです。

 査読の流れですが、まずEditor(編集者)の元に届いた論文は、通常は編集者により適切な査読者が2〜3名選出されます4)。Editor選出のReviewer候補は、査読を断ることも可能ですし、受けたところで一切の報酬はございませんので、むしろ断る方が楽であるという考え方もあります。しかし、候補者に断られればEditorはまた新たなReviewer候補を探さなければならないので、その間投稿者はひたすら待たされることになります。特に学位論文として投稿している人には、その「待ち時間」が異常なほど長く感じられるでしょうし、時には留年などの事態を招きかねないことも多くの研究者は経験しています。そのような意味でも、(これはあくまで筆者の個人的なお願いに過ぎませんが)Review依頼は出来るだけ断らないで頂きたいなぁ・・・などと思う次第です。むしろReviewを引き受けることによって、まだ世に出ていない新たな知見に触れることが出来ますし、さらには論文を見る目が一層養われるわけですから、むしろ研究初期の人こそ積極的に引き受けるべきです。それ以上に、自身と同じ分野の研究者の、しかも未発表の考え方を知るということは、今後の研究活動においては必ずプラスになるわけですし、大きな刺激にもなります。

 なお、誤解の無いように申しますが、Reviewerを引きうける=投稿者のAcceptを早めるということではございません。もちろん内容的にAcceptであればよいのですが、そうでないモノに対しては、ハッキリとダメな理由を伝えなければなりません。まずReviewerを引き受けた場合には、雑誌ごとの「Reviewerの手引き」 を参照して、投稿者に対し論文の掲載可否とその理由を伝えなければなりません。第4回の「論文の基本構造(IMRAD)」 に沿って、通常は5〜7段階の評価を行いつつ、最終的にAccept〜Rejectのいずれかを選択する必要があります。正式なものはReviewerしか見ることは出来ませんので、直接リンク等を張ることは差し控えさせていただきたいのですが、Review画面のイメージを示させて頂きます(もちろん雑誌により形態は異なります)。

 


 上記の項目について、論文を熟読の後点数化して取り扱いを決定します。いずれにしてもダメならばダメ、MinorならMinorの理由を記載しなければなりません。英語を母国語としない我々にとっては結構な重労働ですが、先に書いたような色々なメリットもあります。この結果を待っている人のためにも、引き受けたからには出来るだけ早く対応してあげましょう。参考までに、投稿者に届くのは決定とReviewer’s Commentだけです。

 最後に、統計処理だけが適切でない論文は即Rejectとすべきではありません。この場合には正しい処理方法を伝えることによって、正しい結果を導けることになりますので、Minor Revisionか、誤った処理の数が多くてもせいぜいMajor Revisionとすべきでしょう。ただし、デザインそのものに問題がある場合には、Rejectか少なくともMajor Revisionにはする必要があります。医学研究においては、どうしても統計処理が重要であるように思われてしまいがちですが、大切なのは研究デザインです。統計処理は、データが正しく収集さえされていれば、処理方法を一瞬間違っていたとしても、指摘によって正しく処理出来れば何等問題ありません。が、研究デザインが間違っていればもうお手上げです。既に誤ったデザインでデータが収集されてしまっているわけですから、もはや研究そのものをやり直すしか方法はありません。


 以上、10回に亘ってお話させて頂きました「医学研究の斬り方」ですが、いかがでしたでしょうか? もしもこれを読まれまして、「やってみよう」 「俺にもやれそうだ」 などと思って下さる方がいらっしゃいましたら、それこそ筆者冥利に尽きます。

1)もちろんですが、うますぎる話には注意が必要なのは万国共通です。英文メールだと、どうしても内容確認が甘くなってしまいかねませんので、判断は慎重に行いましょう。

2)書いたのは自分でも、契約次第で著作権は出版社に帰属することになります。本来ならば有料にて買い求めなければならない論文を、うっかりタダで渡してしまうと、出版社の利益を損なうことになりかねませんので注意が必要です。

3)早い話が、筆頭著者として掲載されるということ=その分野では専門家として認められるということですので、意外と責任は重大だったりします。

4)同じ分野を研究している競争相手を査読者とすることを避ける・・・等の理由で、投稿者によりReviewer候補を上げてもらうこともあります。



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第9回 Accept〜掲載までの注意 (2011/9/6)



 査読者との戦い(?)が無事に終了したら、晴れて皆様の論文は掲載となります。戦いが1回で済むか、数戦を要するかは定かではありませんが、いずれにしても「Accepted」 の連絡がくれば晴れて掲載となります。採択された論文は、特にその新規性の部分で厳しい査読を経ているだけに、今後は新たな客観的事実として多くの研究者が参照することになるわけです1)

 通常は、Accept(採択) の後半年以内ぐらいの間に掲載されますが、その前に掲載料(無料の場合もあります) の支払い手続きや、別刷りの部数2)の相談など、それらの連絡も全てメールでやってきますので、くれぐれも見落とさないようにしましょう。実は掲載料が必要で、支払いの期日があったにも関わらず、知らずにすっぽかしてしまった・・・などという場合も本当にあります。普通は督促(カネ払って下さい・・・のようなものです) がくるのですが、そのまま支払わない場合は、掲載の順番が後回しになってしまうか、場合によっては投稿からやり直しの場合もあります3)。筆者の知っている研究者の中には、「カネ払いたくない!」 と、掲載料のかからない雑誌に再投稿したツワモノもおりましたが・・・あまりお勧めできません。雑誌は異なっても当該分野専門家の数は決して多くありませんので、別の雑誌であってもReviewerは一緒だった・・・などということは多々あります。この論文、どこかで見たぞ・・・などと、二重投稿などの有らぬ疑いをかけられないようにするためにも、このような出し惜しみをするのはあまり賛成できません。掲載料の要否は投稿前に確認しましょう!

 多くの研究者は、この「Accepted」 の一言を目指して日夜研究に励んでいる(と推測する?) わけですが、初めての掲載や研究生活の初期段階では、特にその一言に舞い上がってしまいがちです。実際に筆者にも経験があり、Acceptedの連絡がきた瞬間に(確か日曜日の午前中でしたが)、迷惑も省みずに全ての共著者に連絡をしてしまいました。その後の事務手続きまでを済ませて、初めて「in press(印刷中)」 となりますので、いわゆる掲載証明書などはこの段階から貰えることになります。この時点で初めて実績となるわけです。

 教訓:安心できるのは、実際にPubmed等に掲載されてから・・・ですかね。


1)参照される回数が多い雑誌ほど、大きな影響を与えているということで、Impact FactorなるScoreがあるわけです。参照されるほど、掲載された雑誌のScoreが上昇します。

2)別刷りとは、雑誌への掲載部分について該当部分だけを別途印刷してもらえる部分です。最近ではpdfにより存在感が薄れつつありますが、学位論文などの事務手続き時には必須である場合がほとんどです。20部ぐらいはタダでもらえますが、それ以上は有料である場合がほとんどです。

3)論文自体は悪くない訳ですから、実質的には掲載の順番が後回しになることがほとんどです。



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第8回 Reviewer(査読者)との戦い? (2011/8/30)



 前回の「確かに受理しました」 の続きです。投稿受理の確認メールの後は、著者としては最も気になる「査読結果」 が来るわけですが、その期間は雑誌により異なります。通常の雑誌であれば、おおよそ2〜3カ月で何らかの返答があり、その返答内容は大きく下記の4つになります。

 


 筆者の場合ですが、基本的に 1) は経験したことがありません。通常の査読は2人以上で行われるため、たとえば一人の査読者が「特に修正の必要がありません」 としていても、もう一人が修正を求めてくれば、扱いは 2) もしくは 3) になります。また、査読者の立場としては、「専門家として何か言わなくては・・・」 のような意識が働いてしまうのかは定かではありませんが、いずれにしてもいきなり 1) は、ほとんどあり得ないと思って間違いありません。

   2) の場合ですが、非常に掲載の可能性は高いと思います。多くの場合、「○○について説明して下さい」 「××はこう考えますが、どのようにお考えですか?」 のような質問が多く、言うなれば「確認」 に近いものです。全てに対して即答出来るような質問がほとんどですので、この結果が来た時には素直に喜んで良いと思います。参考までに筆者がもらった査読者からの質問と、その回答例を示します。Q10は意見を求められているわけですが、この場合、仮に著者の考えがNoであるならば、査読者とは反対の立場であることを表明しなければなりません。もちろん、そのためには明確に反論できるだけの理由や、科学的根拠が必要です。根拠が正しければ、反論したからといって即Rejectされるようなことは、まともな雑誌であれば1)まずありません。

 3) の場合は大幅な変更や修正、時には追加実験などを行う必要があるため、即答出来ないような質問がほとんどです。提出しても再度Revise(MajorかMinorかは定かではありませんが) を求められるか、場合によってはRejectになることもあります。この結果に対しては、著者はRetract(取りやめ) にして他の雑誌に投稿するか、大幅な修正に応じるかを決断しなければなりません。もちろん、修正したからといって、必ずしもAcceptやMinorになるわけではありませんので、著者は慎重に考えなければなりません。

 4) は問答無用です。拒否理由を書いてくれればまだ良い方で、書いてくれない場合もかなりあります。この場合は、他の雑誌を当たるかお蔵入りにするしかありません。参考までに著者が過去に頂いた拒否理由には、「本件は日本人の話であり、我々の読者はヨーロッパを中心としているので、Targetが異なる」 など、雑誌の対象と研究内容がミスマッチであるという指摘がありました。参考までに、第3回の博士学生の投稿に対しては、「これは評論であり論文ではない。本雑誌では評論を受け付けていない」 というものでした。

   参考までに、4) の場合は査読期間が非常に短いです。


 査読者との戦い(?) の一例
 


1) 以前も書かせて頂きましたが、決してまともでない雑誌もあることはあります。
たとえばある和文雑誌の事例です。

3群の比較試験の結果の処理について相談を受けました。筆者がTukey-Kramerの多重比較法による調整を行った結果を提出したところ、何故か「t検定を3回やって下さい」 と、査読者からリクエストをもらったことがあります。筆者が「第一種の過誤の可能性が高まるため適切ではない」 と意義を申し立てたところ、「言うことが聞けないのであれば掲載しない!」 と、アッサリとRejectされたことがあります。筆者に相談を持ち込んだ研究者は、「なんてことをしてくれたんだ!」 と、激怒しておりました。



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第7回 投稿規定以外の注意点 (2011/8/16)



 ようやく論文本編が完成し、Keyword設定もAbstractも全て記載しました。後は晴れて提出・・・なのですが、準備はよろしいでしょうか? まずは提出の前に、今一度「投稿の手引き(投稿規定ではない)」を確認しましょう。投稿の手引きとは、必要書類や書き方、書式、提出先や提出方法などが記載されたものであり、通常は「Instruction for Authors」のサイトからリンクが張ってある場合がほとんどです。提出時に必要なものは必ずしも論文本編だけではありません。(論文の内容により異なりますが)共著者のサインやスポンサーとの利害関係に関する書類など、本編以外にも提出を求められるものは意外とありますので、事前の準備を忘れないようにしましょう。たとえば共著者が長期の主張に出かけました・・・などとなりますと、その期間は提出することが出来なくなります。特に最先端の研究をされている方々であれば、この数日で他の研究者に先を越されてしまうようなことが無いとも言えませんので、必要書類は念入りにチェックしましょう! 一点でも不備があれば本当に受領されません!

 また、最近はOnlineでの投稿がほとんどです。各雑誌のサイトから、Instructionに従って順番に必要書類を添付して行けば間違いなく投稿出来るのですが、実は結構悩んでしまうのが、「cover letter」です。これは、Editorや査読者宛てのあいさつ文のようなものなのですが、書いたことが無い人には、「一体何を書けば・・・?」と悩んでしまうシロモノだったりします。たとえば筆者の場合ですが、Dear Dr.○○,などと普通の手紙やe-mailと同様の内容のものを送付しております。後は、「この論文は○○に関するものです」「この論文はどこにも発表されておりません」「各共著者の役割は以下のようになっております」など、内容に関するものを数点記載することにしております。実はネット上でも、cover letterの文例などが結構ありますので、便利なものは積極的に利用しましょう!

 さて、全ての投稿が終了致しますと、「確かに投稿受け付けました」のメールが届きますので、そのメールは必ず確認してください。出したはずなのにまだ査読結果が来ない・・・実は通信状態が不良で提出できていなかった・・・などという話も本当にありますので、最後まで提出したことを間違いなく確認しましょう。

 最後にもう一点です。「確かに受け付けました」メールの後も、書類不備のメールが届くことも結構ありますので、投稿後1カ月以内ぐらいはメールにも気を配って下さい。「○○日以内に提出しなければ再提出となります」などの要求は平気でされますので、くれぐれも「見落とした」「放置した」などということの無いようにしましょう。


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第6回 名刺と顔とは? (2011/8/2)



1)論文の名刺:Key word

 ようやく書きあがりました。投稿規定に沿って書きました。では提出・・・の前に、英語のチェックを行いましょう。もちろん英文論文が読めて、しかも執筆できる程の皆様ですから英語に自信はあられると存じますが、多くの雑誌は「Nativeによる英語のチェック」を求めてきます。万が一そこでケチが付きますと、内容の問題では無いだけに極めて勿体ない結果となってしまいますので、多少なりとも不安のある方は用いた方が無難です。

 次に、ご自身の論文のKey Wordを設定します。これは、これから皆様の論文がいかに大勢の人の目に触れるか・・・という意味でも、実は結構重要なお話なのです。多くの皆様は「○○に関する論文」のように、Pubmedなどの検索サイトでKey wordを入力して検索します。まずは大まかに1つのWordで検索、反応する論文が多すぎるので、もう1つか2つのKey wordを加える・・・と、徐々に絞り込まれます。最終的に数十程度の論文が残るわけですが(もっと絞り込む方もいます)、Key wordの設定が悪いと、折角の論文が検索されない(=人目に触れない)ということになってしまいます。


2)論文の顔:Abstract

 Key word検索で引っかかった論文は、今度はAbstract(概要)が読まれることになります。これは、先のIMRADに沿ってダイジェスト的にまとめたものであり、研究者の疑問や問題意識、研究方法、結果や結論などについておおよそ200語程度で記載されたものです。PubmedやMedlineなど多くの検索サイトにおいては、検索した人が無料で読めるのはこのAbstractまでですので、実はこの部分がまずいと、さらに人目に触れる機会を失うことになります。大抵の検索する人にとってはAbstractの情報だけでは不十分であり、論文の本編が必要であるわけです。ところが多くの論文は有料で、1論文当たり30US$〜50US$程度が必要になりますから、(非常に下世話な言い方をしてしまえばですが)「カネ払ってでも欲しい」と思われるようなAbstractで無ければならないと言うことになります1)

  1)もちろん、常に論文を出すことを待ち望まれているような有名な研究者であれば、今回のネタは一切当てはまりません


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第5回 投稿規定の理解(2011/7/19)



 さて、皆様の準備はいかがでしょう? 臨床研究をする人は、倫理委員会の許可は出ましたでしょうか? 患者様のInformed Consent(同意)は得られましたでしょうか? 参考までに、同意を得ることの無いまま患者様のデータを用いた場合は、ヘルシンキ宣言に反することになりますので要注意です1)。また、必要なデータは揃いましたでしょうか? データを積み上げて、そこからEvidenceを導こうとされている皆様も、準備はよろしいでしょうか?

 というわけで実験終了、もしくは既存のデータの解析から新たな発見が得られました・・・ということで、前回のIMRAD構造に従って書いてみました。完成、それでは提出・・・とは行きません。各雑誌には書き方のルール、すなわち投稿規定があるのです。フォントの大きさや見出しの形状、段組みといった事態の問題から、色彩の上限、図表の解像度まで一つ一つが定められております。IMRAD構造が日本国憲法であれば、投稿規定は条例のようなものでしょう。大枠は正しくとも、細かい部分は各雑誌の規定に従う必要があります。前回お話させて頂きましたような、たとえばRejectされてしまって次の雑誌に投稿・・・というような場合は、次の雑誌の投稿規定を読みつつ、書式やフォントなどを修正する必要があります。どこかの雑誌にAcceptされるまで、その繰り返しです。また、別の雑誌に提出するときには、以下の点に気をつけましょう!


 ・ 図の画素数、大きさ、位置。特に位置に関しては、本来の順番に貼り込まなければならない場合と、図は図で、表は表で別にまとめなければならない場合があります

 ・ 以前の論文では求められなかった情報(統計処理に用いたソフトウェアなど)の追加

 ・ 最大の文字数やページ数。有料でカラーやページ数増加等に応じてくれる雑誌もありますが、要注意点です

 ・ 掲載料の有無。全ての雑誌がタダで掲載できるわけではありません。通常、1000US$前後の掲載費用がかかる場合があります

 ・ Abstractの字数や登録Keywordの数(詳細は次回にて)


 で、次回は「論文の顔と名刺」ということで、AbstractとKeywordについてお話させて頂きます。なお、投稿規定につきましては、http://www.toukoukitei.net/index.html などを参照頂ければと存じます。


1)の用語をまとめて
 Informed Consent:「告知に基づく同意」ということで、本来は患者様に治療の方法や意義、効果やリスクなどについて、事前に説明するという意味です。この場合は、臨床研究への参加について、研究者は患者様に説明して同意を得る必要があるということです。

 倫理委員会:臨床研究を行う場合には、研究者が所属する医療機関の倫理委員会の審議を経なければなりません。その後、臨床試験であればUMINやClinical trial.govなどのサイトに登録する必要があります。

 ヘルシンキ宣言:臨床研究における患者様の権利を守るものです。元々はナチスによる人体実験を反省するという意味で、正式には「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」です。



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第4回 論文の基本構造 (2011/7/5)



 論文を読んだことのある人であればご存知と思われますが、実は論文には執筆のルールがあります。それらは投稿規定と呼ばれ、詳細は各雑誌により異なりますので、まずは執筆前に投稿規定を熟読しましょう。ですが、ほぼ全ての雑誌が基本的には例のバンクーバー・グループによる「生物医学雑誌への統一投稿規定」に沿っておりますし、基本的な構造は変わりません。それゆえ、Impact Factorの高い雑誌に投稿してRejectされたものを少し低めの雑誌に投稿する場合でも、それほど大幅な書き直しなどを行う必要はありません*)。投稿規定に合わせてFontを変える、図の体裁を変える、段組みを変えるといった程度です。

 前置きが長くなってしまいましたが、今回はその「共通の部分」についてお話させて頂きます。緒言(Introduction)、実験方法や理論(Method)、結果(Result)、Analysis(解析)、 Discussion(考察)です。AはAcknowledgement(謝辞)という説もありますが、その他にConclusion(結論など)が加わることもあります。以上、論文の基本構造はこれらの頭文字を取って、「IMRAD構造」と呼ばれております。各項目のポイントを簡単にまとめさせていただきますので、是非とも執筆時にご参照頂ければと存じます。


緒言(Introduction):
 ・ 研究を行うに至った経緯や背景などが記載されているか
  ⇒そもそも筆者はなぜこの研究に興味を持ったのか、問題意識は何なのか?
 ・ この研究の目的や仮説、新規性などは記載されているか
  ⇒何を調べて、何を明らかにして、何が疑問で、何よりも、この研究は従来のモノと比較して何が新しいのか?
  (ここがつまらないと、Reviewerにも読んでもらえません。Rejectになる論文の多くは研究目的や新規性が不明瞭であり、いわゆる「何となく集まったデータから何かを言おう」としているような、後付け、泥縄的研究?…は、この部分が不明瞭になりやすくなります)

研究方法(Method):
 ・ 研究の対象は何か
 ・ その集団が選択された理由および、別の集団が選択されていない理由は何か
 ・ 主要評価項目、副次評価項目はそれぞれ何であり、仮説や問題意識とはリンクしているか
 ・ この研究方法をどうして選択したのか
 ・ 介入・観察・割付の方法はどうか(ランダム化、盲献化などを行っている場合は、その方法や遵守の度合いなどを示しているか)
 ・ 利用したデータの出所は明確であり、信頼できるものか

結果(Result):
 ・ 仮説や研究者の疑問は解決できているか
 ・ IntroductionやMethodにおいて記載されている疑問と対応しているか
 ・ 明らかな論理の飛躍や、結果に対する強引な意味づけはなされていないか
 ・ 特定の集団に対して有効であることが主張されている場合は、そうでない集団に関して言及がなされているか
 ・ 統計処理の結果は記載されているか
 ・ 後付の解析になっていないか
 ・ 解析対象となった集団の数は明確に記載されているか
 ・ アスタリスク以外に、p値は記載されているか

解析(Analysis):
 ・ 統計処理を行った場合は、その手法が適切なものであるか
 ・ サンプルサイズは適切か(検証型試験の場合)
 ・ 用いたソフトウエアなどは記載されているか

謝辞(Acknowledgement):
 ・ 研究に対し協力した人間のみが記載されているか
  (「実は何も協力していないけど、名前だけ入れて!」は基本的にNGです)

考察(Discussion):
 ・ 当該研究による新しい知見は何だったのか。それは明確に記載されているか
 ・ その新しい知見の有用性について記載されているか
 ・ 研究結果からの極端な飛躍(たとえば有意でないp値に対し「傾向が見られる」などの記述)はないか


*)実は(本来の目的とは異なるかも知れませんが)、Rejectされた時のReviewer(査読者)のコメントは非常に参考になりますので、筆者個人的には高めの雑誌に積極的に出してみることをお勧めします。何度もRejectされるうちに内容が精査され、論文の欠点が見えてきますので、お時間のある人、何度ハネられてもめげない人は是非・・・。


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第3回 論文の定義(一種の自己主張には違いないが・・・?) (2011/6/21)



 さて、医学研究の斬り方ということで、論文の見方について語らせていただいておりますが、そもそも論文とは何でしょうか? 一般に論文と呼ばれるものは原著論文(Original Articles)のことであり、既存の文献や実験・研究などを通じて新規の結論を検証的に導くものです。その他、過去に報告されていない症例や新薬の反応などを報告する症例報告(Case Report)や、ある事柄に対する概論的な考察を行う総説(Review)、新規の発見について速報的(今後の研究に関する優先権の主張?)に発表する手紙(Letter)などがありますが、このシリーズで論文と呼んでいるものは原著論文です。参考までに、筆者は文学・哲学などの人文科学系の論文は書いたことがありませんので、ここでは敢えて触れませんが、少なくとも社会科学系論文では客観的事実に基づいた主張をする必要があったと記憶しております。

 実際にあった勘違いですが、「私はこう思う」「こうでなければならない」「今の○○は間違っている」など、客観的事実や実験結果、観察結果などを全く考慮していない自己主張は単なる評論ですので、それらは上記のどれにも該当しません。論文と呼べないのは勿論なのですが、実際に、論文を書く=自身の主義・主張・思想・信条を述べることであるという勘違いは、本当にあったりします注)。確かに論文は一種の自己主張であり、自己表現には違いありませんが、そこには事実に基づいて行うという大前提があります。つまり、既存の事実や実験結果を積み上げることによって、研究者の思い(=仮説の検証)を伝えているのであれば、それらは初めて科学的であると言えるわけです。事実に基づかない自己主張は、たとえどれほど偉い先生や権威者の意見であったとしても、Evidence Levelが最も低いものであるということは第一回でお話させて頂きました通りなのです。


注) 冗談のようなお話ですが、実際に何一つ客観的事実の無い評論的文章を医学雑誌に提出し、即日Rejectになった大学院博士課程在学生の事例を筆者は見ております。


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第2回 論文の作法 (2011/6/7)



 皆様は、日常業務の中でどのぐらい医学論文に触れることがあるでしょうか? 実は筆者への質問の中でそれなりに多いのが、「論文を読むために必要な統計の知識」に関するものです。統計の知識は、結果の解釈もそうですが、それ以上に研究の立案の段階でもきわめて重要な位置づけとなりますので、別の機会にそれなりのページ数でお話させて頂ければと存じます。

 筆者としては、実はこの質問の多さの裏側には、やはり「論文の理解 = 統計の知識(時に検定の知識)」のような思いこみがあると推察しているのですが、論文の理解は必ずしも統計の知識だけで解決できるものではございません。茶道や華道、武道にも作法がございますように、技術面以外にも、医学論文にも読み方・書き方共に作法があるということです。例えば統計結果だけを眺めて、p値の大小だけ、特に0.05以上・未満だけに着目するというのは、明らかに作法に反する行為となります。そのp値はどのようなデータから導かれたものであり、どのような手法により解析されて求められたp値なのかということは、常に読み手が考えなければならない作法なのです。いわゆるCritical Reading(論文の批判的吟味)こそが、前回のお話にございました「脱ありがたや」に必要な作法なのです。批判的吟味と申しましても、それは決して「あらさがし」ではない、むしろ当該論文に新たな視点や発見を与えるものなのです。

   大抵の論文には査読がありますので、いい加減な結果が拡散することは無いのですが、中にはいい加減な論文らしきものがあることも否定できません。まずは皆様もReviewer(査読者)になったつもりで、読んでみてはいかがでしょうか?


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第1回 ありがたや・・・になっていないか? (2011/5/24)



 さて、「世の中ナナメに見てみよう」以来久々の登場ですので、例によって余計なことを言い過ぎて打ち切りにならないように注意致します。是非とも、余計なことを聞いてみたいという奇特な方がいらっしゃいましたら、下記リンクまで。東京・大阪で年2回ずつ開催しております。

https://johokiko.co.jp/seminar_medical/AA110707.php

 今回のテーマは、難しいと思われがちな医学研究について、恐れ多くも(?)始めてみませんかというお誘いです。ちょっと、恐れ多くもって何? 研究やっている人間はそんなにエラいってことなのか・・・などと言われてしまいそうですが、実は筆者もそう思っております。ですが、誤解を恐れずに言ってしまえばですが、専門家のご意見は、特に権威のある方のご意見は日本語・英語に関わらずありがたいもの、間違いのないものとして受け止めていらっしゃる方が多いように感じます。ちょっと下記の図をご覧下さいませ。

(Oxford Centre for Evidence-based Medicineの分類(2001)より作成)


 これは、研究のデザインと説得力の強さの関係を表にしたもので、2001年に作成されたものです。我々がテレビなどで目にする、専門家・権威者の意見などは、一番下にあるもの、つまり、一番説得力が無いものとして扱われております。たとえば、決して研究の専門家ではない方でも、キッチリと研究計画を立案して、実行して論文化して採択(Accept)された場合には、その時点で専門家や権威者の意見よりも説得力が高くなります。

 脱ありがたや(?)・・・まずはココから始めましょう。あと9回、よろしくお願い致します。


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大橋 渉 先生のご紹介


ヤンセンファーマ株式会社 生物統計・データマネジメント部 マネージャー 医学博士
東京医科歯科大学 保健学科 非常勤講師

■本テーマ関連の学会・協会等でのご活動
日本統計学会(主として統計教育分科会)、日本計量生物学会、日本医学教育学会、日本医療情報学会、国際医学教育学会、日本乳幼児教育学会、日本看護科学学会、日本臨床検査自動化学会等

■今までのご経歴・ご研究内容
東京学芸大学・大学院修了後民間企業において社会調査、マーケティングデータ等の解析業務、解析統計解析・臨床開発に携わり、2004年より東京医科歯科大学特任助教。2010年より現職。医学・生物・保健統計の教育方法論、統計的手法の適正化、遺伝薬理学等を専門とする。医学博士。

国際学会発表(医療情報、医学教育系)多数
月刊モダンフィジシャン(新興医学出版)にて生物統計学の連載「サルでもわかるSAS教室」連載(2008.2月〜2009年9月)、2010年6月オーム社より単行本『統計を知らない人のためのSAS入門』発刊。SAS Institute Japan 「SAS tech News」にて「SAS四方山話〜アンケート四方山話〜」連載中

コラム『 世の中ナナメに見てみよう! 〜楽しい数字、怪しい数字、卑しい数字?〜 』



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